【データ】酷暑時に注意したい熱中症労災<社労士執筆>
厚生労働省は5月31日、2023年(令和5年)の「職場における熱中症による死傷災害の発生状況(確定値)」を公表しました。この調査によると、2023年1年間において、職場での熱中症による死傷者(死亡・休業4日以上)は1,106人となり、前年より279人(34%)増加したとのことです。このうち、約4割が建設業と製造業で発生していることも分かりました。また、熱中症による死亡者数は31人で、建設業(12人)や警備業(6人)の占める割合が高いそうです。この記事では、公表されたデータをグラフ化し、発生傾向を探ります。
「職場での熱中症死傷者数」10年の変化
1枚目は、2014年以降の直近10年における、熱中症の死亡者数と傷病者数の変化です。緑の棒グラフが、熱中症による死亡者数と傷病者数を指します。2017年以前は500人付近で推移していたところ、2018年に急増し、その後は増減を繰り返していることが分かります。
水色の曲線は、全国13地点での平均猛暑日数(※)を表しています。猛暑日とは、1日の最高気温が35度以上の日を指しますから、これにより「暑い日が多かったかどうか」をざっくりと把握することができます。
この曲線の変化を見ると、2017年から2018年にかけての伸びが大きく、約3.7倍となっています。それにともない、熱中症による死傷者数も激増しています。また、2021年に注目すると、猛暑日が2.1日と例年に比べて非常に少なく冷夏であったことが分かりますが、同時に熱中症による死傷者数も減っています。
2023年は、記憶に新しいと思いますが、暑い日が長く続きました。ですから、熱中症死傷者数も、2018年に次ぐ多さとなりました。今年の夏は今からですが、2024年も猛暑の夏が来ると予測されています。ですから、十分な注意と対策が必要です。
※気象庁(全国13地点平均、猛暑日年間日数):https://www.data.jma.go.jp/cpdinfo/extreme/extreme_p.html
「月別の発生状況」
2枚目は、2019年から2023年までの5年間における月別の熱中症労災発生状況を示したグラフです。想像どおりかもしれませんが、7月から8月に増加する傾向があります。逆に9月は大きく減少します。まだ暑さに慣れていない7月、そして夏真っ盛りともいえる8月に、とくに注意が必要です。
「業種別の発生状況」
3枚目は、直近の2023年における業種別で見た熱中症労災の発生状況です。屋外業務が多い建設業、それに屋内でも熱を扱うことの多い製造業などが上位を占めています。製造業は、工場内での作業が多く直射日光が当たらない環境なので、油断するかもしれません。しかし過去の労災事例を見ると、屋内の工場であっても、溶接など熱いものを扱う場所では、とくに多くの熱中症労災が発生しています。
また、警備業も114人と非常に多いです。そのうち6人が亡くなっておられます。花火大会や夏休みイベントの誘導、駐車場誘導、交通警備など、警備の仕事のニーズが高い夏ではありますが、十分な対策が必要だと思われます。製造・建設・運送と比べて、警備業の就業者数はそれほど多くありません。にも関わらず、これだけの数ですから、割合で見ると、警備業が上位にくる可能性は高いのではないでしょうか。
「年齢別の発生状況」
4枚目は、2023年における年齢別の発生状況です。45歳以降で増加傾向にあります。65歳以上が突出して多いですが、年齢幅が「5歳」刻みではなく、65歳以上すべての年齢を含むため多く見えるのかもしれません。とはいえ、65歳以上で仕事中に熱中症になる人が多いという事実は、注視すべき点だと考えます。
まとめ
こちらの記事でも書きましたが、厚生労働省提供の「職場のあんぜんサイト」によると、職場での熱中症対策として、以下のような対策をとることが有効だそうです。ぜひ、参考にしてみてください。
<熱中症対策例>
1 | 労働者の健康状態を把握し、熱への順化を図るための期間を設けるなど、就業上の措置を講じる。 |
2 | 作業を行う場所の暑さ指数(WBGT値)をあらかじめ測定し、関係労働者にその結果を周知するとともに、その暑さ指数に応じた対策を実施する。 |
3 | 熱中症予防のための労働衛生教育を徹底する。 |