【事例集】熱中症労災をどう防ぐか?<社労士執筆>
ウェザーニュースの発表によると、2024年の夏は、全国的に昨年に匹敵する暑さが予想されているそうです。とくに、チベット高気圧と太平洋高気圧が重なり合う「ダブル高気圧」が発生する、7月下旬から8月上旬がピークといわれています。そこで気になるのが、熱中症による労災(労働災害)。空調完備の屋内業務はさておき、建設業や警備業、空調の弱い製造業などでは注意が必要です。そこで、過去の熱中症による労災事例から注意すべきポイントを探ってみようと思います。
【労災事例①】木造家屋の建築工事
被災者は、朝から木造家屋の基礎工事現場で型枠材の加工と組み立て作業に従事していた。1時間に1回(50分労働後10分休憩)、昼休憩は12時から13時まで、午後も1時間に1回休憩をとっていた。夕方の休憩時、被災者がふらふらし始めたため、頭を水で冷やした。しかし、その後言葉がうまく話せず、痙攣を起こした。空のポリタンクを枕にして寝かせたが、回復する兆しがなかったため、救急車を呼んだ。搬送された後、「熱射病による多臓器不全」で死亡。休憩時間、遮光されている場所がなかった。被災者の作業衣は保熱しやすく、熱中症対策が不十分だった。暑さ指数(WBGT値)の測定も実施していなかった。
【労災事例②】工事現場での交通警備
被災者は交通警備員として道路補修工事現場に配置され、交通誘導業務を行っていた。仕事中、会社の警備員制服(上下)を着用し、保護帽を被っていた。交通誘導中も適宜ペットボトルで水分補給を行っていた。午後になり交通誘導が不要となったため、被災者は現場内の跨線橋の桁の日陰で休憩をとるよう指示された。休憩の指示がなされてからしばらくして、測量会社社員が被災者を発見。被災者は跨線橋の桁の日陰から補修工事場所までの通り道で仰向けになり、嘔吐し、鼻血を出し、意識不明の状態で倒れていた。暑さ指数(WBGT値)の測定も実施しておらず、「身体を適度に冷やすことのできる」物品や設備も用意されていなかった。
【労災事例③】金属部品製造工場での検査
被災者は、焼き入れされた板バネの形状を検査し、不良品を取り除き、合格品を焼き戻し炉に並べて入れる作業を担当。災害発生日、午前8時30分から通常の検査の作業を始め、1時間ごとに10分程度の休憩を取りながら作業を行っていた。12時に昼の休憩に入り、食事をとりながら同僚に「足がだるい」と話していたが、午後1時に、通常の作業に就いた。午後2時に10分の休憩をとった後、30分ほど経過したとき、被災者が作業位置で倒れているのを同僚が見て、直ちに救急車により病院に搬送し治療を受けた。しかし、3時間後に熱中症により死亡した。災害発生日は、最高気温が35℃に達する猛暑であり、被災者の作業位置では40度を超える室温であった。スポットクーラーが設けられていたが室温を緩和するほど有効に機能していなかった。
【労災事例④】道路での清掃
被災者は、道路の路側帯の清掃および車線迂回コーナー部フェンス内側の雑草除去に従事していた。災害発生当日、被災者は午前9時に現場に到着し、直ちに清掃作業に取りかかった。10時に道路の下の日陰で約15分休憩をとり、再び清掃作業を開始。約45分の作業の後、日陰で15分の2度目の休憩をとった。12時から午後1時まで昼食と休憩をとった後、作業に戻った。午後2時頃、被災者が座り込んだため、作業指揮者は被災者に日陰での休憩を指示し、作業に戻った。しばらくして様子を見に戻ったところ、被災者が座り込んだ場所から約80m離れた場所で倒れているのを発見した。災害発生前日と当日は最高気温が36度を超えており、災害発生時の午後2時の気温は36.4度であった。被災者は経験年数は3年であるが、68歳と高齢であった。また、健康診断が実施されていなかった。
【労災事例⑤】屋内倉庫内での荷降ろし作業
被災者は物流倉庫内で、午前8時から11時まで輸送用トラックのロールボックスパレットからコンベアに荷物を下ろす作業を行った。休憩後、休憩室から出ようとした際に歩行不能となり、救急搬送されたが、熱中症による多臓器不全で死亡。被災者は体調不良で休職しており、復職したばかりだった。作業場は屋内で空調管理がされ、飲料水サーバーも近くに設置されていた。一方で、熱中症予防のための指標である暑さ指数(WBGT値)の測定は実施していなかった。
まとめ
①~④は屋外での業務ですが、⑤は屋内での業務で、空調管理もされていた場所です。こうした環境においても熱中症による労災事故は発生しています。本記事で参考にした厚生労働省提供の「職場のあんぜんサイト」によると、以下のような対策の徹底が必要だと記載されていました。
<熱中症対策例>
1 | 労働者の健康状態を把握し、熱への順化を図るための期間を設けるなど、就業上の措置を講じる。 |
2 | 作業を行う場所の暑さ指数(WBGT値)をあらかじめ測定し、関係労働者にその結果を周知するとともに、その暑さ指数に応じた対策を実施する。 |
3 | 熱中症予防のための労働衛生教育を徹底する。 |
とくに、(2)の暑さ指数(WBGT値)の把握に関しては、いずれの労災事故現場でも実施されていませんでした。この暑さ指数という数値は現在、学校などの教育現場には導入されはじめ、指数に応じて体育の授業や外遊びの時間が制限されています。労働現場においても、熱中症が懸念される場所では、導入を図っていくべきかもしれません。
暑さ指数(WBGT値)を計測すると同時に、必要な対策を講じていくことが重要だと考えます。売上との兼ね合いはありますが、猛暑となる期間は限られていますので、暑さ指数が高い日は「屋内業務を優先させる」「夏季休暇を長く取得してもらう」といった対策を行ってもいいのではないでしょうか。
参考
※厚生労働省(職場のあんぜんサイト) https://anzeninfo.mhlw.go.jp/#
※環境省(熱中症予防情報サイト)https://www.wbgt.env.go.jp/
※NHKニュース(新たな学校向け熱中症対策チェックリストを全国に通知)https://www3.nhk.or.jp/news/html/20240430/k10014437081000.html
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