【法改正】労働条件明示ルール 3つの変更点<社労士執筆>

労働条件の明示事項とは?

労働条件の明示とは、雇用契約を結ぶ際に、雇用主が労働者に対してその労働条件を具体的かつ明確に示すことを指します。これには、労働者が安心して働くために必要な情報が含まれ、雇用主の義務として法的に定められています。2024年の法改正では、以下の【変更点】を付している3点が追加となりました。

▼必ず明示しなければならない内容(絶対的明示事項)

労働契約期間雇用契約の期間、または雇用開始日と終了日
有期労働契約を更新する際の基準【変更点②③】更新上限の有無と内容
(更新上限新設・短縮時)その理由
(無期転換権発生後)無期転換申込機会があることと無期転換後の労働条件、均衡待遇
就業場所と業務内容労働者が働く場所と具体的な業務内容、変更の範囲含む【変更点①】
始業・終業の時刻、休憩時間、残業の有無労働時間の詳細や残業の有無
休日、休暇休日、休暇の取り方について
賃金、昇給賃金の算定基準、支払い方法や時期、昇給の仕組み (※昇給のみ書面交付不要)
退職退職手続きや条件(解雇を含む)

▼定めがある場合は明示しなければならない内容(相対的明示事項)

退職手当(退職金)退職手当の有無、支給条件や計算方法について
賞与(ボーナス)賞与の有無、支給条件や時期について
費用負担通勤費や制服代など、労働者が負担することになる費用について
安全衛生労働環境や安全対策に関する事項
職業訓練職業訓練や教育の有無、その内容について
災害補償および業務外の傷病扶助業務上の災害に対する補償や、業務外での傷病に対する扶助について
表彰、制裁表彰制度や制裁規定について
休職休職の条件や手続きについて

なお、労働条件の明示は口頭ではなく、書面で行うことが義務づけられています。書面には、労働契約書や雇用通知書、労働条件通知書などが該当します。近年では、電子メールや電子データによる明示も許可されていますが、労働者が確認しやすい形で提供される必要があります。

変更点① 勤務地・仕事内容の変更の範囲

①に関しては、すべての労働者が対象となる変更です。従来、「入社時点(雇い入れ直後)」での勤務地と仕事内容を明示するだけで済んでいたところを、「将来的に」転勤・異動する可能性がある勤務地と仕事内容も明示しなければならなくなりました。法改正後は、例えば、以下のように書く必要があります。

勤務地(雇い入れ直後):東京本社/(変更の範囲)全国の営業所および海外支店(上海・マニラ)
仕事内容(雇い入れ直後)経理/(変更の範囲)会社内すべての業務に配置転換あり

変更点② 更新上限の有無と内容

②に関しては、労働契約期間を定めて働く契約社員、パート・アルバイト、派遣社員などを対象としたものです。有期契約の契約期間はすでに明示することが義務づけられていますが、今回新たに、期間に加えて更新上限の有無と内容も明示することとなりました。更新上限は、通算契約期間または更新回数の上限を記載します。

さらに、更新上限を新設・短縮する場合、その理由を個々に説明する必要が生じました。記載例は以下のとおりです。

更新上限の有無と内容「契約期間は通算4年を上限とする」
「契約の更新回数は3回までとする」
更新上限新設・短縮時の理由「当初予定していた出資が受けられず、担当業務が縮小することとなったため」
「業績悪化により事業所を閉鎖することとなり、担当業務が縮小することとなったため」

変更点③ 無期転換申込機会と転換後の労働条件

③に関しては、有期契約で働く労働者のなかでも、無期転換申込権を持つ有期契約者が対象となります。無期転換申込権についてですが、有期労働契約が、同一の使用者との間で通算5年を超えて契約更新された場合、労働者は無期労働契約(正社員)への転換を申し込むことができます。その際に発生する権利を、無期転換申込権と呼んでいます。この場合、企業は無期転換を断ることができません

今回の法改正では、無期転換申込権が発生する契約更新のタイミングごとに、「無期転換に申し込める旨」と「無期転換後の労働条件」を書面で明示することが必要になりました。また、努力義務として「均衡を考慮した説明」も加えられています。均衡考慮とは、仕事内容や責任の程度などに応じて、バランスのとれた公平な待遇を提示することをいいます。

なお、無期転換申込権発生後、更新ごとにこの明示が求められます。明示する労働条件は、上記の絶対的明示事項・相対的明示事項と同様です。記載例は以下のとおりとなります。

無期転換申込機会「本契約期間中に無期労働契約の申込みをした時は、本契約期間満了の翌日から無期雇用に転換することができる」
無期転換後の労働条件「無期転換後の労働条件は、本契約と同様」
「無期転換後は、労働時間を1日8時間(9時~18時)、賃金を月給30万円に変更する」

まとめ

以上が、2024年4月からスタートした労働条件明示ルールの変更点でした。変更点①については、全労働者が対象となるため、インパクトの大きな変更です。とくに、全国転勤ありの総合職採用時などには、従来の明示方法では違法となってしまうため、留意する必要があります。また、変更点②③については、有期契約で働く労働者を対象としています。内容を見ると、有期契約の労働者(いわゆる非正規雇用)の不利益を防ぐとともに、無期契約(正規雇用)へと転換させていく意図の含まれた法改正だと言えるでしょう。

参考

※厚生労働省(令和6年4月から労働条件明示のルールが改正されます)

https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_32105.html

Aya Hayashiさんによる◆無期転換ルール