【重要判例】『退職金規程の不利益変更の合理性』―東京ゼネラル事件(地裁 2000年1月21日判決)

<事件のサマリー>
この事件は、オプション取引などを行う会社Yに勤務し、支店長であった労働者X が、退職に関連する就業規則変更とその適用を巡って争われたものです。
労働者Xは、6月26日に退職の意思を示し、上司の慰留を受けつつも最終的に7月20日付で退職しました。当時、Y社では要職に就いていた従業員の大量退職や競業会社への転職が相次ぎ、トラブルが発生していました。
これを受け、同年6月16日付で就業規則を改定し、付属規程として新たに退職金規程を設け、「会社の承諾を得ないで退職後一年以内に会社と同種または類似の競業を営みまたは同業競合会社に就職した場合」は支給を制限するとの内容が盛り込まれました。
労働者Xはこの新規程に該当するとされ、退職金が5割に減額されて支給されました。そこでXは、この就業規則の変更は不利益変更で無効であり、退職意思表示後の改定なので適用されないとして、未払退職金の支払いを求めて提訴しました。
裁判所は、労働者Xの退職日は新しい就業規則の施行後であると認定しました。そのうえで、変更の必要性、内容の合理性、功労金制度の新設といった労働条件の改善、従業員の多数が同意していた手続面などを踏まえ、本件変更は合理的で有効と判断しました。結果として、退職金を減額することは許されるとして、Xの請求は棄却されました。
<判決のポイント>
結論:労働者の敗訴(会社の勝訴)
●この就業規則変更には合理性が認められる
裁判所は、就業規則の変更は原則として労働者に不利益を及ぼすものであってはならないとしつつ、当該変更内容そのものが合理的である限り、個別の労働者の同意がなくても適用が可能であるとの判断基準を確認しました。本件では、競業制限の対象範囲を限定し、期間も退職後1年に制限するといった一定の配慮や、競業他社への就職について会社の承諾を得れば可能とする内容から、合理的であると評価されました。離職が相次いだことから、就業規則変更の必要性もあったと認められました。
●労働者の退職の仕方にも問題があった
裁判所は、労働者Xが退職理由として述べた内容が後の経緯から信頼できないと認められる点や、退職時の態様が会社に著しい不利益を及ぼすものだったと評価しました。このことから、就業規則に基づく退職金の減額は合理的であるとして、労働者Xの主張を退けました。
<踏まえての留意点>
●退職金制度の性格を明確にする
退職金規程や退職年金規約については、勤続期間や給与基準、支給条件を明確にし、退職金がどのような性質(賃金性・功労報償性)を有するのかを整理しておくことが重要です。性格が曖昧だと、請求権の発生時期や支給条件をめぐって争いが生じやすくなります。近年は、従来の退職一時金から確定拠出年金(企業型DC等)へ移行する企業も増えています。トラブル防止の観点から、制度の見直しを検討することも有益でしょう。
●懲戒等による退職金減額は慎重に行う
懲戒解雇などを理由に退職金の支給を制限する場合には、その行為が、これまでの勤続の功を大きく損なうほどの重大な背信行為に当たるかどうかが重要になります。軽い違反を理由に減額や不支給とすると、権利の濫用として認められない可能性があります。実際、退職金の扱いをめぐる裁判は多く、火種になりやすいテーマだといえます。
出典
・事件名: 退職金請求事件(東京ゼネラル事件)
・裁判所: 東京地方裁判所
・判決日: 平成12年1月21日(西暦2000年1月21日)
・参照法条:労働基準法11条、労働基準法89条1項3号の2、労働基準法93条
・判決文(判例概要): https://www.zenkiren.com/Portals/0/html/jinji/hannrei/shoshi/07492.html


