【重要判例】『試用期間の性質と試用後の解雇の限界』―ブラザー工業事件(地裁1984年3月23日判決)

<事件のサマリー>
この事件は、見習社員として採用された労働者Xが、「見習社員」として継続的に雇用され、翌年3月の試用社員登用試験に合格して「試用社員」となりました。その後に行われた3回の社員登用試験すべてに不合格となり、就業規則に基づいて解雇されたことから始まりました。
労働者Xは、見習社員としての雇用が更新されていた実態、および将来の社員登用の期待があったことから、 解雇は無効であるとして地位保全の仮処分を申請しました。一方で会社側は、就業規則に基づいて正当な処理だと主張しました。
名古屋地裁は、現業職員の業務適性は見習社員期間(短い人で6~9か月、長い人で15か月)中に判断できるため、試用社員に登用した者に対して、さらに12~15か月の試用期間を設ける合理的な必要性はないとして、この解雇を無効とするなど申立ての一部を認容しました。
<判決のポイント>
●見習社員は臨時工的雇用ではなく試用制度の一部と評価
裁判所はまず、見習社員という採用形態が単なる臨時工的雇用(短期バイトのような雇用形態)ではなく、 将来の社員登用を前提にした試用制度として実質的に機能していた と判断しました。求人広告、就業規則、入社案内において将来の正規社員登用予定が示され、実際の登用率も極めて高いことなどから、見習社員は単なる短期労働ではなく、能力評価を行うための雇用形態であると整理しました。
●1年にもわたる試用期間は長すぎる
裁判所は、試用社員における試用期間の長さについて検討しました。見習社員から試用社員へ登用された者への試用期間は、最長で1年程度に及んでいましたが、 試用期間中の評価と本採用判断との間に重大な差異がないにもかかわらず、長期の試用が継続することは合理性を欠く としました。また、試用期間自体が合理的な範囲を越えた場合、公序良俗に反すると整理しました。
●試用社員登用後の勤務状況は解雇に値しない
裁判所は、試用社員登用後のXの勤務成績・勤怠状況を検討しました。会社の判断として、勤務成績の低さを解雇理由として主張しましたが、 試用前の評価と比較して実質的な差異がなく、会社側が採用時に予測可能であった内容に基づく解雇理由は合理性を欠く としました。また、勤怠についても重大な欠勤等がないことも踏まえ、解雇事由として十分な裏付けがないと評価されました。
<踏まえての留意点>
●試用期間は「長すぎない」設計が重要
試用制度は、能力・適性評価のための期間であり、目的を逸脱する長期の試用は認められません。試用期間の長さ・延長方法については就業規則だけでなく実際の運用を含めて検討する必要があります。本件では、「見習社員」と「試用社員」という二段階の制度が採られ、正規社員になるまでに1年以上の実質的な試用期間が設けられていました。しかし、一般的には試用期間は6か月以内に収めることが望ましいと考えられます。
●試用期間中の解雇は慎重に行う
試用期間中であっても、解雇が自由に認められるわけではありません。試用期間は「解約権留保付き労働契約」と呼ばれ、法的には本採用時と大きく変わらず、解雇権の規制がやや緩やかになるにすぎません。したがって、会社は採用時点で把握できた能力や適性を踏まえて登用している以上、その後の成績不良が予測可能な範囲であれば、解雇理由として正当とはいえません。また、業務配分の不適切さや指導不足、体調面の事情など、会社側の対応にも目を向ける必要があります。改善の機会を与えずに解雇することは、無効と判断される可能性があります。
出典
・事件名: 地位保全等仮処分申請事件(ブラザー工業事件)
・裁判所: 名古屋地方裁判所
・裁判年月日: 昭和59年3月23日(西暦1984年3月23日)
・参照法条: 労働基準法21条(解雇の予告)、民法1条3項(権利の濫用)・90条(公序良俗)
・判決文(判例概要): https://www.zenkiren.com/Portals/0/html/jinji/hannrei/shoshi/00204.html

