【重要判例】『退職勧奨の限界と違法性』―下関商業高校事件(最高裁 1980年7月10日判決)

<事件のサマリー>
この事件は、地方公務員である市立高校の教員Xら に対し、Y市教育委員会が長期間・執拗に退職勧奨を行ったことの違法性・損害賠償責任を巡る裁判です。
教員Xらは、退職勧奨年齢(57歳)に達したことを理由に2~3回にわたり退職を打診されましたが、拒否をし続けました。その後、数か月間にわたって10数回以上、Y市教育委員会への出頭を命じられたり、20~90分にわたって退職を勧奨されたりしたといいます。また、勧奨に応じない限りは所属組合の要求にも応じないという心理的圧力も加えられました。
教員Xらはこれら一連の行為が違法な退職強要・不法行為に当たるとして、損害賠償を求めて訴えました。一審・二審は、本件を退職勧奨の限度を超えるとして、教員Xらの請求を認容。最高裁も追認しました。
<判決のポイント>
結論:労働者の勝訴(使用者の敗訴)
●被勧奨者の自由意思を奪ってはならない
最高裁は、退職勧奨はあくまで労働者の自発的な退職意思を形成するための説得行為であると整理しました。使用者等は諸種の説得手段を用いることができますが、被勧奨者の意思決定の自由を奪ったり、名誉や感情を害するような言動は許されません。任意の意思形成を妨げ、圧力となる行為は、使用者権限の範囲を逸脱した違法な行為となる可能性があるとしました。
●退職勧奨の方法や回数、続いた期間が行き過ぎていた
最高裁は、本件退職勧奨の回数(10回以上)、期間(数か月間)、長時間にわたる勧奨、立会人(組合代表)の拒否、優遇措置の提示がないまま退職まで勧奨を続けた点などを総合的に考慮しました。これらの態様はいずれも、被勧奨者の自由な意思形成を圧迫し、心理的圧力を加えるものとして社会通念上許容される限度を超えると評価されました。
<踏まえての留意点>
●限度を超えた退職勧奨は「退職強要」と評価される
退職勧奨そのものが、直ちに違法になるわけではありません。しかし、労働者が「退職しない」と明確に意思表示しているにもかかわらず、執拗に繰り返したり、心理的圧力をかけたりすると、自由な意思決定が妨げられ、事実上の退職強要と評価されます。そのため、退職勧奨を行う際は、事前に弁護士などの専門家に相談することが望ましいです。
出典
・事件名: 損害賠償請求事件(下関商業高校事件)
・裁判所: 最高裁判所第一小法廷
・判決日: 昭和55年7月10日(西暦1980年7月10日)
・参照法条: 国家賠償法1条、労働契約法、労働基準法
・判決文(判決概要):https://www.zenkiren.com/Portals/0/html/jinji/hannrei/shoshi/90002.html


