【重要判例】『完全週休2日制導入に伴う就業規則変更の合理性』―函館信用金庫事件(最高裁 2000年9月22日判決)

<事件のサマリー>
この事件は、信用金庫である Y社 に勤務していた労働者Xらが、Y社の 就業規則変更が労働条件を不利益に変更するものとして無効であり、その結果として未払賃金が生じている と主張して争ったものです。
具体的には、労働基準法の改正や社会的要請により完全週休2日制を導入するため、平日の所定労働時間を25分延長する 就業規則変更案が提案されました。Y社はこれを労働組合との話し合いにもとづく同意を得られないまま変更を実施しました。労働者Xらは、この変更によって従来午後5時以降に支払われていた時間外手当が減少し、賃金条件に不利益が生じたとして、その減額部分を未払賃金として請求しました。
一審では労働者Xらの請求が棄却されましたが、二審では就業規則変更を不利益変更として無効と判断し、Xらの控訴を認容しました。しかし最高裁は、変更による実質的不利益と社会通念上相当性を総合的に評価し、Y社による完全週休2日制実施の必要性等を認め、変更自体は合理的であり有効と判断しました。
<判決のポイント>
結論:労働者の敗訴(会社の勝訴)
●就業規則変更による実質的不利益の評価
最高裁は、就業規則変更によって 一日の所定労働時間が25分延長されること自体は労働条件の不利益変更に該当すると認め ました。ただし、変更前後の年間総労働時間を計算すると、大きな差が生じない点や、土曜日の休日が増加するなど休日の充実による利益がある点を重視しました。したがって、労働条件全体でみたときに労働者に生じる実質的不利益は必ずしも大きくないと評価しました。
●変更の必要性と社会通念上の相当性
最高裁は、完全週休2日制の導入が当時の政府方針や業界の動向から見て不可避的であり、Y社にとって平日の労働時間延長による全体的なバランス調整が必要であったと判断しました。また、変更後の労働時間は当時の一般水準と比べて著しく長いものではなく、社会通念上相当と評価できる水準であったとしました。したがって、就業規則変更は労働条件の不利益変更として許容範囲にあると整理しました。
●労使協議の不十分さの評価
二審は労働組合との協議が十分に行われなかった点を重視し、就業規則変更を無効としました。しかし最高裁は、協議不足だけで変更自体を直ちに無効と評価することは適当ではないとしました。労使間の意見対立や協議経緯は評価要素の一つにとどまり、最終的には全体的に合理性・社会通念上の相当性を総合判断すべきであるとしました。
<踏まえての留意点>
●労働条件の不利益変更は全体評価で判断
就業規則等による労働条件の変更を行う場合、一要素だけで不利益変更と評価するのではなく、年間の労働時間や休日の増減など全体的な労働条件を総合して評価することが重要です。 変更後の全体像を丁寧に整理し、労働者にどのような影響があるかを客観的に示すことが必要です。
●社会的要請や経営必要性を立証する
完全週休2日制など社会的要請や法改正に対応するための変更は、変更の必要性や経営環境等を客観的に立証することが評価につながります。 業界の動向や法令改正の趣旨、労働市場の状況を整理し、変更の理由・必要性を明示する資料を揃えることが望まれます。
●労使協議の履歴と記録の整備
労働組合との協議が争点になることは多いものの、協議が不十分だからと直ちに変更を無効とするわけではありません。 とはいえ、協議の履歴・議事録・回答内容等を整備しておくことは、合理性・社会通念上相当性の立証につながります。共同意見や反対意見も整理し、総合判断資料として備えておくことが重要です。
出典
・事件名: 未払賃金請求上告事件(函館信用金庫事件)
・裁判所: 最高裁判所第二小法廷
・判決日: 平成12年9月22日(西暦2000年9月22日)
・参照法条: 労働基準法89条1項1号・労働基準法93条
・判決文(判決概要): https://www.zenkiren.com/Portals/0/html/jinji/hannrei/shoshi/07608.html


