【重要判例】『懲戒権の根拠と就業規則の周知義務』―フジ興産事件(最高裁 2003年10月10日判決)

<事件のサマリー>
この事件は、化学プラント設計などを行うY社の設計部門センターで勤務していた 労働者X が、顧客対応の不十分さや上司への暴言などにより職場秩序を乱したとして、Y社が約2か月前に施行した就業規則の懲戒規定に基づいて 懲戒解雇処分としたことの有効性を争ったものです。
Y社側は、就業規則に懲戒規定が設けられており、これに基づいた正当な懲戒処分であると主張しました。一方で労働者Xは、就業規則の変更は解雇直前であり、周知も不十分であったことから、懲戒解雇が無効である旨を主張して、 損害賠償請求等の訴えを提起しました。
一審と二審は、新就業規則が労働者代表の同意を得て労基署に届出された事実をもとに、労働者Xの請求を棄却。しかし、最高裁は、懲戒処分の根拠となる就業規則自体が労働者に適用されるための「周知手続」を十分に経ていない点に重大な審理不足があるとして、原審判決を破棄し、審理を尽くすよう差し戻しました。
<判決のポイント>
●懲戒処分は就業規則の根拠規定が必要
最高裁は、懲戒処分は使用者の恣意的判断ではなく、あらかじめ就業規則上に懲戒の種類・事由を明確に規定しておく必要があるとしました。この点は労働契約法・判例実務の基本であり、労働者に不利益を与える懲戒処分を行うには、必ず就業規則にその根拠がなければならず、規定が欠けている懲戒処分は無効となる可能性が高いと整理しました。
●就業規則の法的効力には「周知」が必要
最高裁は、就業規則が法的規範として労働者に拘束力を持つためには、対象となる労働者に対して周知の手続が採られていることが必要だとしました。単に労働者代表の同意を得て労働基準監督署に届出をしただけでは足りず、実際に懲戒を適用する事業場において労働者がその内容を理解し、認識可能な形で周知されていることが前提とされます。
●審理不尽を理由とする差し戻し
二審では、就業規則が労働者代表の同意を得て制定され、労基署に届け出られていた事実のみを根拠に、その効力を認めました。しかし、センター勤務の労働者に対して、その内容が実際に周知されていたかどうかについては、具体的な認定を行っていませんでした。この点が審理不尽と判断されました。
<踏まえての留意点>
●就業規則は周知を徹底する
就業規則は、作成して労基署に届け出ただけでは効力を持ちません。実際に働く労働者に対して、内容をきちんと周知してはじめて、法的な拘束力が生じます。掲示板への掲示、書面配布、イントラネット掲載など、労働者がいつでも確認できる状態を整えておくことが重要です。周知の事実を証明できる記録も残しておく必要があります。
●懲戒処分の根拠規定を明確にしておく
懲戒解雇を含む懲戒処分は、就業規則に「どのような行為が」「どのような処分の対象になるか」が具体的に定められていなければなりません。曖昧な規定や抽象的な表現だけでは、後に無効と判断されるリスクがあります。規定内容は、実際の職場トラブルを想定しながら、具体性を持たせて整備することが求められます。
出典
・事件名: 解雇予告手当等請求本訴・損害賠償請求反訴・損害賠償等請求事件(フジ興産事件)
・裁判所: 最高裁判所第二小法廷
・判決日: 平成15年10月10日(西暦2003年10月10日)
・参照法条: 労働基準法89条9号、労働基準法106条
・判決文(判決概要): https://www.zenkiren.com/Portals/0/html/jinji/hannrei/shoshi/08227.html


