【重要判例】『妊娠を契機とした降格措置の限界』―広島中央保健生協事件(高裁 2016年11月17日判決)

<事件のサマリー>
この事件は、医療系組合である Y組合 に勤務する理学療法士の 労働者X が、妊娠中の業務軽減措置に伴い 副主任職を免ぜられる(いわゆる“降格”)処分を受けたことを違法だとして争ったものです。
労働者Xは、妊娠を理由に本来の業務から軽易な業務への転換が必要となった際に、副主任としての役割・管理職地位を失い、その後、育児休業終了後も副主任職に復帰できなかったとして、男女雇用機会均等法(均等法)9条3項が禁止する「不利益取扱い」に該当すると主張しました。さらに、本件処置が育児・介護休業法にも違反しているとして争いました。
一・二審はXの請求を退けましたが、最高裁は降格によりXに生じた不利益が均等法の趣旨に反すると指摘。ただし、降格に自由意思のもとで合意していたなど特段の事情がある際は、降格も認められるとして、高裁に差し戻しました。その後、高裁では特段の事情がなかったとされ、労働者Xの損害賠償請求を一部認めました。
<判決のポイント>
結論:労働者の一部勝訴(会社の敗訴)
●妊娠を理由とする降格は原則として違法
妊娠中の軽易業務への転換を契機に副主任の職を解いた措置は、原則として均等法9条3項が禁止する「不利益取扱い」に当たるとされました。業務負担の軽減という目的があっても、降格という不利益が伴う以上、特段の事情がない限り違法となります。
●「承諾」があっても自由意思とは認められない
労働者Xは降格を受け入れていましたが、裁判所は自由意思に基づく承諾とは認めませんでした。降格の必要性や理由について十分な説明がなく、代替案の提示もなされていなかったため、実質的に労働者Xに選択の余地がない状況だったと判断されました。
●出産・育児への配慮が欠けていた
使用者は、母性を尊重し職業生活の継続を支える義務を十分に果たしていなかったとされました。復帰時の役職維持に向けた検討や説明もなく、結果として不法行為および債務不履行が認められ、損害賠償責任を負うと判断されました。
<踏まえての留意点>
●妊娠・育児等を理由とする人事措置は慎重に
妊娠・出産・育児を契機とした配置転換や業務軽減であっても、降格や待遇引下げを伴う場合は、不利益取扱いと評価される可能性があります。業務上の必要性だけでなく、法の趣旨に反しないか、労働者に過度な不利益が生じていないかを丁寧に検討することが重要です。少子化が社会問題化している昨今は特に、仕事と家庭の両立を支える姿勢が、企業により一層求められています。
●降格の合意は自由意思のもとで行う
使用者が、降格措置について労働者から合意を得る場合、単なる書面での署名だけでなく、合理的な理由に基づく自由な意思で承諾したことが客観的に認められる実質的な事情を示す必要があります。説明の内容・方法・選択肢の提示などに配慮し、記録を残すことが重要になります。
出典
・事件名: 地位確認等請求控訴事件(広島中央保健生協(C生協病院・差戻審)事件)
・裁判所: 広島高裁
・判決日: 平成27年11月17日(西暦2015年11月17日)
・参照法条: 男女雇用機会均等法9条(婚姻、妊娠、出産等を理由とする不利益取扱いの禁止等※)、育児・介護休業法10条(不利益取扱いの禁止※)、民法415条(債務不履行による損害賠償※)・709条(不法行為による損害賠償※)・710条(財産以外の損害の賠償)、労働基準法65条3項(産前産後※)
・判決文(判例概要): https://www.zenkiren.com/Portals/0/html/jinji/hannrei/shoshi/09082.html


