【重要判例】『有期労働契約の反復更新と雇止め』―博報堂事件(地裁2020年3月17日判決)

<事件のサマリー>
この事件は、広告事業等を営むY社で長年契約社員として勤務してきた労働者Xが、契約期間満了を理由に雇止めされたことの適法性が争われた事案です。
労働者Xは、1988年4月に新卒でY社に入社し、1年の有期雇用契約を締結しました。その後、契約は約30年にわたり29回更新され、2013年頃までは形式的に契約書へ署名押印するだけで更新が継続される状態になっていたといいます。
Y社は、2008年に「有期契約の通算期間が5年を超える場合は原則更新しない」とする、いわゆる「最長5年ルール」を導入しましたが、当初は労働者Xら長期契約者は対象外とされていました。
その後、2013年施行の改正労働契約法を受け、Y社はXに対しても同ルールを適用し、2018年3月で契約を終了する旨の「不更新条項」を含む契約書を締結しました。労働者Xはこれらの契約書に署名押印していましたが、雇用継続を望む意向を示していました。
2018年3月、Y社は労働者Xに対して契約終了を通告し、Xはこれを不当な雇止めであるとして、雇用契約上の地位確認や賃金支払いを求めて提訴しました。裁判では、契約終了が合意によるものといえるか、また雇止めに合理性があるかが争点となりました。
<判決のポイント>
結論:労働者の一部勝訴(会社の敗訴)
●合意解約が成立したとはいえない
裁判所は、長期にわたる契約関係を踏まえると、雇止めについて労働者の合意が成立したと認めるには慎重であるべきだとしました。単に、「不更新条項」が記載された雇用契約書に署名していたという事情だけでは、労働者Xが契約関係の終了に明確に同意したとはいえないと判断されています。
●契約更新に対する期待は保護されるべき
2013年以降の契約更新の状況などを総合すると、本件の雇用契約を「実質的に無期雇用と同視できる」とまではいえず、ただちに労働契約法19条1号(雇止め法理)には該当しないとされました。ただし、2013年までの長年の更新実績から、原告が「今後も契約は更新されるはずだ」と期待することには合理性があると判断されています。そのため、この更新期待は、労働契約法19条2号により保護されるべきものとされました。
●雇止めを正当化する十分な理由がない
Y社は、「最長5年ルール」や人件費削減、業務効率化を理由に雇止めを正当化しましたが、裁判所は、これらはいずれも一般的・抽象的な理由にとどまり、雇止めを正当化するには不十分であると判断しました。また、原告のコミュニケーション能力の問題についても、雇用継続が困難なほど重大とはいえず、十分な指導教育も行われていなかった点が重視されています。その結果、雇止めには客観的合理性が欠けるとされました。
<踏まえての留意点>
●雇止めには「客観的で具体的な理由」が必要
長年にわたり契約を更新してきた労働者については、「人件費削減」「業務効率化」といった一般的な理由だけでは、雇止めの正当性は認められにくいといえます。業務上の問題点がある場合でも、日頃から指導や改善の機会を与え、その記録を残しておくことが重要です。突然の雇止めは、解雇権濫用や労働契約法19条違反と判断されるリスクが高まります。
●労働者の「更新期待」は慎重に扱う
長期間にわたる契約更新が続いている場合、労働者には「次も更新されるだろう」という合理的な期待が生じます。不更新条項への署名だけで、その期待が消えるわけではありません。更新しない場合には、事前に十分な説明を行い、納得のいくプロセスを踏むことが不可欠です。説明不足のまま雇止めを行うと、無効と判断される可能性があります。
●無期雇用転換ルールを踏まえ、将来像を示すことが重要
有期契約が通算5年を超えると、労働者には無期雇用への転換申込権が発生します。会社としては、単に「5年で終了」とするのではなく、無期雇用への道筋やキャリアの選択肢を示しておくことが望まれます。無期転換後の処遇や役割をあらかじめ整理し、労働者に見通しを持たせることで、トラブルの予防と人材の安定確保につながります。
出展
・事件名: 雇用契約上の地位確認等請求事件(博報堂(雇止め)事件)
・裁判所: 福岡地方裁判所
・判決日: 令和2年3月17日(西暦2020年3月17日)
・参照法条: 労働契約法19条(有期労働契約の更新等)
・判決文: https://www.zenkiren.com/Portals/0/html/jinji/hannrei/shoshi/09354.html


