【重要判例】『有期労働契約の反復更新と雇止め』―東芝柳町工場事件(最高裁1974年7月22日判決)

事件のサマリー

この事件は、東芝柳町工場で契約期間2か月の臨時従業員として入社した労働者らが、5回から23回(約1年から約4年)にわたり契約更新の後に会社から契約打ち切り(雇止め)を通知されたことに端を発しています。

この労働者らは、正社員とほぼ同じ業務に従事していたことや、入社時に長期雇用や正社員登用の期待を抱かせる言動があったこと、さらに過去の基幹臨時工は長期間継続雇用されていたことを挙げ、雇止めの無効を主張しました。これに対し、会社は契約期間満了による正当な打ち切りであり、法的問題はないと反論しました。

最高裁は、業務内容や期待形成の事情、過去の扱いなどを踏まえ、契約打ち切りの効力判断には解雇に関する法理を類推すべきと判断。期間満了の通知であっても、実質的に解雇と同様に扱う必要があるとしました。

判決のポイント

📌契約更新の実態と雇止めの性質

最高裁は、労働者の契約が複数回反復して更新され、実質的に長期継続雇用の期待が形成されている場合、期間満了による雇止めは単なる契約終了とは評価できず、解雇に類似する性質を持つと判断しました。これにより、有期契約であっても、契約の更新実態や労働者の期待が考慮されることが明確になりました。

📌信義則・権利濫用の法理の適用

契約期間の満了だけを理由に雇止めを行う場合であっても、会社の事情や経済的必要性が十分でない限り、使用者の一方的な更新拒絶は信義則や権利濫用の観点から制約されるとされました。これにより、労働者に不合理な雇止めが行われないよう、法理上の安全弁が示されました。

📌就業規則の解雇条項とその運用

最高裁は、臨時従業員就業規則に契約期間満了を解雇事由として規定していても、実務上の契約更新状況や労働者の期待を無視して条項を形式的に適用することは許されないとしました。形式的な規定だけでは、更新拒絶の正当性を裏付けるものにはならないことが示されました。

踏まえての留意点

👉契約更新の実態を把握する

企業は、有期契約の更新が繰り返されている場合、その実態を正確に把握し、労働者に長期雇用の期待を持たせていないか注意する必要があります。反復更新や期待の形成がある場合、単純に契約期間満了を理由とした雇止めでは、信義則や権利濫用の問題が生じる可能性があります。

👉就業規則条項の形式的運用に注意する

就業規則に「契約期間満了による解雇」が規定されていても、実際の契約更新状況や労働者の期待を無視して適用すると、形式的な条項だけでは雇止めの正当性を担保できません。更新拒絶を行う際は、実務状況や労働者の認識を踏まえて慎重に判断する必要があります。

出典

・事件名:昭和45(オ)1175、労働契約存在確認等請求事件
・裁判所:最高裁判所第一小法廷
・判決日:昭和49年7月22日(1974年7月22日)
・参照法条:労働基準法第2章「労働契約()」
・裁判所の判決文:https://www.courts.go.jp/hanrei/54173/detail2/index.html