【重要判例】『ユニオン・ショップ協定と解雇権濫用』―日本食塩事件(最高裁1975年4月25日)

事件のサマリー
この事件は、労働組合との間でユニオン・ショップ協定(※)を結んでいた日本食塩製造で起きました。従業員Xは、組合活動をめぐって離籍処分(除名処分)を受け、会社はそれを理由に解雇しました。従業員Xは「除名は不当で、解雇も無効だ」として雇用関係の確認などを求めて提訴しました。
会社側は「協定上当然の処分」と主張しましたが、最高裁は「除名が不当なら解雇の前提を欠くし、たとえ有効でも解雇自体が社会的に相当でなければ無効」と判断。ユニオン・ショップ協定があっても、無条件に解雇が認められるわけではないとしました。
※ユニオン・ショップ協定=従業員は必ず特定の組合に加入していなければならず、加入しない、あるいは脱退・除名されれば会社を解雇されるとする協定。労働組合を持つ、歴史ある大企業に多い。
判決のポイント
📌協定による解雇でも解雇権濫用法理が適用される
最高裁は次に、協定に基づく解雇であっても、通常の解雇と同様に「客観的に合理的な理由と社会通念上の相当性」がなければ無効になると明言しました。ユニオン・ショップ協定は、労使双方の合意による強力な制度ですが、それでも労働者の地位を一方的に奪うような解雇は許されないという立場です。この考え方は、後の労働契約法16条(解雇権濫用法理の明文化)にもつながる基本原理となりました。
📌除名の有効性と解雇の妥当性は別問題である
最高裁は、除名が有効であっても、それが直ちに解雇を正当化するわけではないとしました。除名理由と会社秩序との関係、行為の重大性、他の手段による対応の可能性などを総合的に考慮し、解雇が「社会的に相当」なものであるかどうかを判断すべきとしました。つまり、①除名の有効性、②解雇の合理性・相当性という二段階の審査が必要であると示したのです。
踏まえての留意点
👉解雇前に合理性・相当性を検証する
この事件から企業が踏まえるべき最大のポイントは、どのような理由であっても、解雇は「権利の濫用」と評価されれば無効になりうるという点です。たとえ就業規則や協定などに形式的な根拠があっても、それだけで解雇が自動的に認められるわけではありません。
解雇が社会通念上相当といえるかどうか、つまり、理由に合理性があり、手続や対応が妥当だったかが問われます。企業は「形式上の要件を満たせば足りる」と考えるのではなく、解雇の実質的な妥当性を慎重に検討する姿勢が欠かせません。
出典
・事件名:昭和43(オ)499、雇傭関係存在確認請求
・裁判所:最高裁判所第二小法廷
・判決日:昭和50年4月25日(1975年4月25日)
・参照法条:労働組合法第2章、労働組合法第3章、民法627条
・判決文:https://www.courts.go.jp/hanrei/51922/detail2/index.html


