【重要判例】『過失による放送事故と解雇権濫用』―高知放送事件(最高裁1977年1月31日判決)

事件のサマリー

この事件は、高知放送に勤務していたアナウンサーが、早朝ニュースを寝過ごして二度にわたり放送事故を起こしたことなどを理由に「普通解雇」とされ、その有効性が争われたものです。この早朝ニュースは宿直勤務の後に行われるもので、通常は別の担当者が先に起きてアナウンサーを起こす運用になっていましたが、その担当者も二度にわたって寝過ごしたといいます。

高知放送は、定時放送を使命とする企業の対外的信用を著しく失墜させたとして普通解雇を決定しました。アナウンサー側は、この解雇が解雇権の濫用に当たるとして、地位保全を求めて提訴しました。最高裁は、解雇権の濫用を認め、解雇処分を無効としました。

判決のポイント

📌解雇権の濫用の判断基準

最高裁は、解雇権は使用者に認められる強力な権利である一方で、無制限に行使できるわけではないと判断しました。具体的には、解雇の理由が客観的に合理的であること、社会通念上相当であることが必要とされます。つまり、労働者の行為や過失の程度、勤務状況、過去の懲戒歴などを総合的に考慮し、解雇に至るまでの手段が妥当かどうかが判断基準となるのです。

📌解雇事由の重さとその背景の考慮

本件では、寝過ごしによる放送事故が二度発生したことが解雇理由とされました。しかし、最高裁は、これらはいずれも過失によるもので、悪意や故意によるものではないこと、また、別の担当者が先に起きてアナウンサーを起こすことになっていたが、その担当者も寝過ごしたことなどを重視しました。また、放送局側がアナウンサーの就業環境や睡眠管理に配慮した措置を十分に講じていなかった点も考慮され、単なる過失を理由に直ちに解雇とするのは過酷であると認定しました。

📌企業の対応の妥当性の検討

最高裁は、企業が問題発生後に取った対応の妥当性も重要視しました。高知放送は、問題が発生した際に、まず指導や再教育などの段階を経ずに解雇処分を決定した点が問題とされました。企業は、労働者に改善の機会を与えるか、他の懲戒処分を検討するなど、段階的かつ公正な対応を行うことが求められるという判断です。

踏まえての留意点

👉解雇は合理的理由と公正な手続きが必要

企業は、労働者を解雇する際には、客観的に合理的な理由を明確にし、社会通念上相当であることを確認する必要があります。理由の説明が不十分であったり、手続きに不備がある場合、解雇権の濫用と判断されるリスクがあります。自社で判断するより、まずは弁護士などに相談することをお勧めします。

👉過失や軽微な不祥事でも解雇は慎重に判断する

企業の対外的な信頼を失墜させた場合であっても、直ちに解雇に踏み切ることには慎重になるべきです。まずは指導や再教育、注意勧告など段階的な対応を行い、改善の機会を与えることが重要です。解雇を最後の手段として位置付けることで、法的リスクを低減できます。

👉企業の対応策や管理体制の妥当性を常に検証する

労働者の行為だけでなく、企業側の管理体制や対応策の妥当性も評価されます。早朝勤務や特定業務のリスクが高い場合には、勤務シフトの調整やバックアップ体制の整備など、事前の配慮を行うことでミスを抑制できます。そうした対策を行っていたかどうかも、裁判では考慮されます。

出典

・事件名: 昭和49(オ)165、従業員地位確認等請求
・裁判所:最高裁判所第二小法廷
・判決日:昭和52年1月31日(1977年1月31日)
・参照法条:民法627条「期間の定めのない雇用の解約の申入れ()」、労働基準法20条「解雇の予告(※)」
・裁判所の判決文:https://www.courts.go.jp/hanrei/74499/detail2/index.html