【重要判例】『育休取得による不利益取扱い』―いわくら病院事件(高裁2014年7月18日判決)

事件のサマリー

この事件は、医療法人稲門会が運営するいわくら病院に勤務していた男性看護師が、2010年度に育児休業を取得したことを理由に、2011年度の職能給の昇給を受けられず、昇格試験の受験資格も与えられなかったことに関して、これらの措置が育児・介護休業法第10条に違反する不利益取扱いに該当するかが争われた事案です。

男性看護師は、約3か月間の育児休業を取得しました。取得後、職能給の昇給が行われず、また、昇格試験の受験資格も与えられませんでした。これらの措置は、育児休業を取得したことを理由とする不利益取扱いであり、育児・介護休業法第10条に違反するとして、男性看護師は損害賠償と慰謝料を求めて提訴しました。

地裁では、昇格試験の不利益を認めた一方、昇給は不利益を認めませんでした。高裁は、病院が病気等の理由で3か月以上の欠勤が生じても、職能給の昇給を認める扱いにしていたことに着目し、昇給・昇格ともに育児・介護休業法第10条に違反する不利益取扱いに該当するとして、男性看護師の請求を認容しました。

なお、最高裁は上告を却下しており、高裁の判決で確定しています。つまり、労働者側の勝訴です。

判決のポイント

📌不昇給規定の無効性

裁判所はまず、育児休業を理由に昇給を認めなかった会社の取扱いについて、公序に反し無効であると判断しました。前年度に3か月以上育児休業を取った従業員は翌年度の定期昇給を受けられないという規定は、残りの9か月の勤務実績を一切評価しないものであり、育休以外の欠勤や休暇よりも不利に扱う合理性のない内容でした。そのため、労働者が育児休業を取得する権利を事実上制限し、法が保障する趣旨を失わせるものであるとして、違法と判断されました。

📌昇格試験の受験資格を認めなかったことの違法性

昇格試験の受験資格を与えなかった点についても違法性が認められました。男性看護師は要件を満たしていたにもかかわらず、会社は正当な理由なく受験を認めなかったため、不法行為法上の違法な行為に当たるとされました。以上の判断から、裁判所は会社に対し、損害賠償として23万9040円と遅延損害金の支払いを命じています。

踏まえての留意点

👉育休取得を理由に不利益な取り扱いは行わない

育児休業を取得した従業員について、休業期間以外の勤務実績を評価せず昇給を認めない制度は、法律上違法と判断される可能性があります。休業を理由に昇給を止めるのではなく、実際の勤務状況や成果を正当に評価する仕組みを整えることが必要です。

👉就業規則の適正な運用

就業規則において、昇給や昇格の要件を定める際には、育児休業期間を不当に除外することがないように注意が必要です。育児休業を取得したことを理由とする不利益取扱いは、育児・介護休業法第10条に違反する可能性があります。企業は、就業規則の運用においても法令遵守を徹底する必要があります。

出典

・事件名:平成25年(ネ)3095号 損害賠償請求控訴事件
・裁判所:大阪高等裁判所
・判決日:平成26年7月18日(2014年7月18日)
・参照法条:育児・介護休業法第10条「不利益取扱いの禁止()」
・裁判所判決:https://www.zenkiren.com/Portals/0/html/jinji/hannrei/shoshi/08988.html