【重要判例】『私生活上の非行と懲戒解雇』―横浜ゴム事件(最高裁1970年7月28日判決)

事件のサマリー
この事件は、タイヤ製造会社Y社の従業員であるXが、深夜に酩酊した状態で他人の居宅に侵入し、住居侵入罪で罰金刑を受けたことを契機に、Y社が従業員Xを懲戒解雇した事案です。
Y社は就業規則に基づき「不正不義の行為を犯し会社の体面を著しく汚した」として懲戒解雇しました。これに対し従業員Xは、解雇は無効だとして雇用関係の存続確認を求めて提訴しました。
第一審および控訴審は従業員Xの請求を認容し、Y社が上告しました。最高裁は、従業員Xの行為が私生活の範囲内であり、懲戒解雇は無効であるとの判断を示しました。つまり、労働者側が勝訴しています。
判決のポイント
📌私生活上の非行と懲戒解雇
最高裁は、従業員の私生活上の非行が企業の業務や秩序に直接的な関係を持たない場合、懲戒解雇の対象とすることは適切でないと判断しましました。従業員Xの行為は私生活の範囲内であり、Y社の業務や秩序に直接的な影響を及ぼすものではなかったとされています。
📌懲戒解雇の相当性の判断基準
懲戒解雇が適切であるかどうかは、行為の内容、社会的影響、従業員の職務上の地位などを総合的に考慮して判断されるべきです。従業員Xの行為は軽微であり、受けた刑罰も罰金2,500円と軽度であり、職務上の地位も指導的な立場ではなかったことが、懲戒解雇の不当性を裏付けています。
📌就業規則の適用範囲の制限
就業規則における懲戒事由は、企業の業務や秩序に関連する行為に限定されるべきであり、私生活上の行為にまで適用することは過度であるとされました。従業員Xの行為は私生活の範囲内であり、就業規則の懲戒事由に該当しないと判断されています。
踏まえての留意点
👉私生活行為への懲戒権行使は慎重に
企業は、従業員の私生活上の行為に対して懲戒権を行使する際には、その行為が企業の業務や秩序に直接的な影響を及ぼすものであるかを慎重に判断する必要があります。私生活の範囲内での行為に対して懲戒処分を行うことは、過度な制裁となる可能性があるため注意が必要です。
👉懲戒処分の相当性を検討する
懲戒処分を行う際には、行為の内容、社会的影響、従業員の職務上の地位などを総合的に考慮し、その処分が相当であるかを検討することが求められます。軽微な行為に対して過度な処分を行うことは、不当な解雇とされる可能性があります。
👉就業規則の適用範囲を明確に
就業規則における懲戒事由は、企業の業務や秩序に関連する行為に限定することが望ましいです。私生活上の行為に対して懲戒処分を行う場合、その適用範囲を明確にし、従業員に対して適切な説明を行うことが重要です。
出典
・事件名: 昭和44(オ)204 雇傭関係存続確認請求
・裁判所:最高裁判所 第三小法廷
・判決日:昭和45年7月28日(1970年7月28日)
・参照法条:労働基準法第89条第1項第9号「就業規則(※)」
・裁判所の判決文:https://www.courts.go.jp/hanrei/54158/detail2/index.html


