【重要判例】『使用者の安全配慮義務』―川義事件(最高裁1984年4月10日判決)

<事件のサマリー>
この事件は、宿直勤務中の従業員が、窃盗目的で来訪した元同僚により殺害されたことを契機に、遺族が使用者である会社に対して安全配慮義務違反に基づく損害賠償を求めた事案です。
発端は、高価な反物や毛皮等の商品を陳列・保管している社屋に、従業員を夜間に宿直させていたこと。被害発生当時は宿直員が一人であり、防犯のためののぞき窓やインターホン、防犯チェーン等の防犯設備が整っていませんでした。遺族側は、会社が適切な設備の設置や宿直員の増員、安全教育などの措置を講じていれば事件は防げたとして、会社の安全配慮義務違反を主張しました。
一方、会社側は予見可能性や具体的な義務範囲を争うなどして責任を争いました。一審・二審ともに、一部会社の責任を認める判断が示されました。最高裁でも、会社に安全配慮義務違反に基づく損害賠償責任があるとしました。
<判決のポイント>
結論:労働者(遺族)の勝訴(会社の敗訴)
●使用者の安全配慮義務の明確化
最高裁は、雇用契約には労働者の生命・身体を守るための「安全配慮義務」が付随すると明示しました。労働者が使用者の施設や設備で労務を提供する以上、使用者は危険を予防するために適切な配慮を行わなければならないとしています。
●防犯対策・安全対策の必要性
本件のように高価品を扱う社屋で、盗難や侵入の危険が予見できる状況では、のぞき窓・インターホン・防犯ベルなどの物的設備を整えること、あるいは宿直員の増員や安全教育など人的措置を取ることが使用者に求められるとしました。具体的な防犯対策を怠ったことが安全配慮義務違反と判断されています。
●予見可能性と因果関係
事件より前に、紛失事故や盗難が発生したり、不審な電話がしばしばかかってきていたことから、最高裁は盗難や宿直員への危害は十分予見でき、適切な設備や体制を整えていれば事故は防止できたと判断しました。したがって、会社の不作為(対策を取らなかったこと)と被害との間には因果関係があり、損害賠償責任を負うべきと結論づけました。
<踏まえての留意点>
●安全対策を徹底する
高価な商品を扱う店舗や24時間営業の店舗では、強盗などのリスクが高いため、防犯カメラや非常通報ボタンといった設備の整備が欠かせません。こうした対策が不十分なまま従業員を勤務させると、会社の安全配慮義務に違反していると判断されるおそれがあります。
●危険な場面では複数名対応にする
夜間や強盗・トラブルのリスクが高い時間帯に、従業員を1人だけで勤務させることは、できる限り避けるべきです。ワンオペ体制では、万が一の際に助けを呼びにくく、従業員の身の安全が確保しづらくなります。複数人での配置や、管理者による定期的な巡回、緊急時にすぐ対応できる連絡体制を整えることで、事故や侵入被害のリスクを下げることが重要です。
●危険予測と対策の記録をとる
想定されるリスクを体系的に洗い出し、それぞれに対してどのような対策を検討・実施したのかを、記録として残しておくことが重要です。後から「十分に予見できたはずだ」と評価されないよう、リスクの予測過程と対応方針の検討プロセスを可視化・文書化しておくことが望ましいです。
出典
・事件名:損害賠償事件(川義事件)
・裁判所:最高裁判所第三小法廷
・判決日:昭和59年4月10日(西暦 1984年4月10日)
・参照法条:民法第415条「不法行為に基づく損害賠償(※)」・民法第623条「雇用(※)」
・裁判所の判決文:https://www.courts.go.jp/hanrei/52180/detail2/index.html


