【重要判例】『外注化に伴う在籍出向命令』―新日本製鉄事件(最高裁2003年4月18日判決)

事件のサマリー

この事件は、新日本製鉄株式会社(以下「製鉄会社」)が、一定業務を協力会社(以下「委託先会社」)に業務委託することに伴い、当該業務に従事していた従業員らに在籍出向を命じた事案です。出向命令は、従業員らの個別同意を得ずに発令されました。

当該従業員らは、出向期間の長期化や出向に伴う生活・労働条件への影響から、出向命令は無効であり権利濫用にあたるとして訴えを提起しました。一方、製鉄会社は、就業規則や労働協約に業務上の必要による社外勤務の規定があり、出向労働者の利益に配慮した詳細な規定も整備されていることを根拠に、出向命令は合法であると主張しました。

第一審および控訴審は、出向命令の有効性を認め、従業員らの請求を棄却しました。最高裁判所も出向命令は権利濫用に当たらず有効であるとして、原審判決を支持し上告を棄却しました。つまり、従業員側が敗訴しています。

判決のポイント

📌出向命令の有効性

・最高裁判所は、製鉄会社の就業規則および労働協約において、業務上の必要により社外勤務をさせることがある旨の規定があり、出向労働者の利益に配慮した詳細な規定が設けられていることから、個別の同意なしに出向命令を発令することができると判断しました。

📌出向命令の権利濫用の否定

・出向期間が長期化したことについても、製鉄会社の経営判断が合理性を欠くものとはいえず、出向措置を講ずる必要性があったと認められました。また、出向措置の対象となる者の人選基準には合理性があり、出向労働者らがその生活関係や労働条件等において著しい不利益を受けるものとはいえないとされました。これらの事情に鑑みて、出向命令が権利の濫用に当たるとはいえないと判断されました。

📌在籍出向と転籍の違い

・在籍出向と転籍との本質的な相違は、出向元との労働契約関係が存続しているか否かという点にあるとされました。出向期間の長期化をもって直ちに転籍と同視することはできないとし、出向命令の有効性を認めました。

踏まえての留意点

👉出向命令の根拠規定を整備する

・企業は、出向命令を発令する際には、就業規則や労働協約において、業務上の必要により社外勤務をさせることがある旨の規定を設けることが重要です。これにより、個別の同意なしに出向命令を発令することが可能となります。ただ、後々にトラブルが発生することを考えると、個別同意を得るほうが望ましいです。

👉出向命令の合理性の確保する

・出向命令を発令する際には、経営判断としての合理性を確保することが求められます。出向措置を講ずる必要性があり、出向措置の対象となる者の人選基準に合理性があることを確認することが重要です。

👉労働者の不利益を最小化する

・出向命令を発令する際には、労働者の生活関係や労働条件等において著しい不利益を与えないよう配慮することが必要です。労働者が受ける不利益を最小化するための措置を講じることが求められます。

出典

・事件名: 平成11(受)805  出向命令無効確認請求事件
・裁判所:最高裁判所第二小法廷
・判決日:平成15年4月18日(2003年4月18日)
・参照法条:民法625条1項「使用者の権利の譲渡の制限等()」、労働基準法第2章「労働契約()」
・裁判所の判決文:https://www.courts.go.jp/hanrei/62441/detail2/index.html