【重要判例】『裁量労働制と管理監督者性』―エーディーディー事件(高裁2012年7月27日判決)

事件のサマリー

この事件は、コンピュータシステム開発会社の従業員が、会社に対して未払い残業代や過重労働による損害賠償などを求めたものです。

事件の発端は、原告である会社が、売上減少は従業員Bの業務上の不適切な行動が原因であるとして、約2,000万円の高額な損害賠償請求訴訟を提起したことにあります。これに対し、従業員Bは、会社に長時間労働を強いられ、未払い残業代が発生していること、さらには長時間労働が原因でうつ病を発症したとして、未払い賃金や損害賠償を求める反訴を提起しました。

裁判の最大の争点は、従業員Bに専門業務型裁量労働制や労働基準法上の管理監督者の適用があるかどうかでした。会社側はこれらの制度が適用されるため残業代の支払い義務はないと主張しましたが、裁判所は、従業員Bの実際の業務内容や権限を詳細に検討し、会社の主張を退けました。

最終的に裁判所は、会社側の従業員Bに対する損害賠償請求を棄却し、一方で、従業員Bの会社に対する未払い残業代と付加金の支払いを命じました。これにより、従業員側の主張が一部認められる形で決着しました。

判決のポイント

この判決で特に重要となったのは、以下の2つの争点に対する裁判所の判断です。

📌専門業務型裁量労働制の適用要件の厳格な判断

・裁判所は、専門業務型裁量労働制の対象業務は「情報処理システムの分析・設計」に限定されるとしました。従業員Bは、システム設計だけでなく、裁量性の低いプログラミング業務にも従事しており、会社からノルマを課されるなど、具体的な業務指示を受けていました。このため、業務遂行に裁量が認められず、裁量労働制の適用を否定しました。

📌管理監督者性の判断

・会社は、従業員Bが課長であり、幹部会議にも出席していたことから、管理監督者であると主張しました。しかし、裁判所は、従業員Bが企業の事業経営に関する重要事項の決定に関与する立場にはなかったこと、また、月額5,000円という役職手当が職責に見合っていないことを理由に、管理監督者には当たらないと判断しました。

踏まえての留意点

この判決は、企業が裁量労働制や管理監督者制度を運用する際に、名称や形式だけでなく、実際の労働実態を重視すべきであるという重要な示唆を与えています。企業が注意すべきポイントは以下の通りです。

👉制度の適用範囲を正確に判断する

・裁量労働制は、業務の性質上、労働者の裁量に委ねる必要がある業務に限定されます。裁量性の低い業務(プログラミング、営業など)に従事させる場合は、制度の適用外となることを認識する必要があります。

👉権限と待遇を実態に合わせる

・「管理監督者」の地位は、単に役職名や給与の高さだけで判断されるものではありません。企業の経営方針に関わる実質的な決定権限を与え、その職責に見合った待遇を付与することが求められます。

👉労働時間管理を徹底する

・裁量労働制や管理監督者と安易に判断せず、労働者の勤務時間を客観的に把握し、適正な労務管理を行う義務があることを再認識すべきです。

出典

・事件名: 平成21(ワ)2300等 損害賠償請求事件 時間外手当等反訴請求事件
・裁判所:大阪高等裁判所
・判決日:平成24年7月27日(2012年7月27日)
・参照法条:
・裁判所の判決文:https://www.courts.go.jp/hanrei/81784/detail4/index.html