【重要判例】『採用内定取消の違法性』―大日本印刷事件(最高裁1979年7月20日判決)

事件のサマリー
この事件は、大学卒業予定者が大日本印刷株式会社から採用内定を受けたものの、その後会社が内定を取り消したことをめぐって争われたものです。
内定者は大学4年生の7月に内定通知を受け、(1)翌年3月に必ず入社すること、(2)履歴書の虚偽記載など5項目に該当する場合は内定取り消しに異議を唱えないこと、について誓約書に署名し、会社へ提出して、就職活動を終了しました。
ところが入社直前の翌年2月、会社は「グルーミーな印象があり、それを打ち消せなかった」という曖昧な理由で内定を取り消します。内定者はその後、就職先が見つからないまま大学を卒業。そこで、会社を相手取り内定取り消しの無効を訴えました。
会社側は「内定は労働契約の成立を意味しない」として適法性を主張しましたが、最高裁は内定通知書と誓約書の内容を踏まえ、労働契約は成立していたと認定。内定取り消しは解約権の濫用であり無効と判断しました。結論として、内定者の勝訴となりました。
判決のポイント
📌採用内定=労働契約の成立
最高裁は、採用内定の通知は単なる採用の予約ではなく、「始期付解約権留保付 労働契約」が成立したと判断しました。 これは、「入社日(就労の始期)までは契約の効力が発生しないものの、内定取消事由に該当する事情がない限り、会社は一方的に契約を解除できない」という特別な性質を持つ労働契約と位置付けたものです。これにより、内定者は法的に保護された地位を得ることになりました。
📌内定取消しは解雇に準じて厳しく制限
内定期間中に会社が内定を取り消すのは、すでに成立した労働契約を会社が一方的に解約することになります。そのため、取消しは「解雇」と同じように厳しく制限されます。具体的には、「客観的に合理的な理由がなく、社会通念上相当と認められない場合」は無効とされます。
📌内定取消しが認められる要件を明確化
この判決は、内定取消しが例外的に認められるのは、以下の2つの要件を満たす場合としました。(1)内定当時、会社が知ることができず、また知ることが期待できなかった事実であること。(2)その事実を理由として内定を取り消すことが、解約権留保の趣旨・目的に照らして客観的に合理的であり、社会通念上相当であると認められること、です。本件では、会社が「グルーミー(陰気)」という内定前から認識しえた曖昧な印象を理由に、内定を取り消したため、上記要件を満たさず、内定取消しは無効と判断されました。
踏まえての留意点
この判決を踏まえ、企業が採用活動において特に留意すべきポイントは以下の3点です。
👉内定時に契約が成立したと考える
採用内定は単なる約束ではなく、将来の入社を条件とする労働契約が成立した状態だと認識すべきです。就活生の多くは、内定通知とともに就職活動を終了し、学生生活に戻ります。入社を目前に控えた時期での内定取消しは、生活設計やキャリア形成に深刻な不利益をもたらします。安易な内定取り消しは、余程の理由がない限り、絶対に避けるべきです。
👉内定取消には「客観的に合理的な理由」が必要
内定の取消は、企業が一方的に自由に行えるものではありません。内定当時には知り得なかった事実で、かつ社会通念上、取消がやむを得ないと認められるような客観的で合理的な理由がある場合にのみ認められます。
👉内定前の調査を慎重に行う
内定後に「会社に適さない」と判断した場合でも、その理由が内定を出す時点で知り得た事柄であれば、内定取消は無効と判断されるリスクが高いです。内定後のトラブルを防ぐためにも、採用の判断は慎重に行い、必要な調査は内定前に行うことが重要です。
出典
・事件名: 昭和52(オ)94 雇用関係確認、貸金支払
・裁判所:最高裁判所第二小法廷
・判決日:昭和54年7月20日(1979年7月20日)
・参照法条:労働基準法第2章「労働契約(※)」
・最高裁判所の判決文:https://www.courts.go.jp/hanrei/52138/detail2/index.html


