【重要判例】『有期契約の更新拒否(雇止め)』―日立メディコ事件(最高裁1986年12月4日判決)

事件のサマリー
この事件は、日立メディコ(当時)における臨時員の雇止めを巡る労働契約の効力を争った事案です。
従業員Xは、1970年12月1日から同月20日までの期間を定めて、柏工場に臨時員として雇用され、その後、2か月の期間を定めた労働契約が5回更新されました。臨時員は比較的簡易な方法で採用され、担当業務も難しくないものでした。しかし、1971年10月20日、会社は業績悪化を理由に、従業員Xとの契約更新を拒否する通知を出しました。従業員Xはこの雇止めが不当であるとして、労働契約の存在確認を求めて提訴しました。
第一審は雇止めを無効として従業員Xの請求を認めましたが、控訴審(原審)はこれを覆し、雇止めは適法と判断しました。最終的に最高裁は上告を棄却し、原審判断を支持しました。最高裁判決は、5回の契約更新があったとしても、臨時員の契約は期間満了ごとに締結された有期契約であり、期間の定めのない契約に転化したものではないと判断しました。また、臨時員の雇止めは、事業上やむを得ない理由に基づく場合には適法であることを明確にしました。つまり、会社側の勝訴です。
判決のポイント
📌「解雇権濫用法理」の類推適用ができる
この労働者は2か月間の有期契約を5回も更新し、合計約1年間勤務していました。最高裁は、このような契約更新が反復された場合、雇止めにも解雇と同様に客観的に合理的な理由が必要であり、社会通念上相当と認められるものでなければならない、という法理(雇止め法理)が適用されるとしました。
📌しかし、本件の雇止めは有効と判断
最高裁は、今回の事案では、経営状況の悪化に伴う人員削減がやむを得ない状況であったことや、臨時工が景気変動に対応する目的で雇用されていたことを重視しました。これらの理由から、会社の判断は不合理とはいえず、雇止めは権利の濫用にあたらないと結論づけ、労働者側の請求を退けました。
踏まえての留意点
👉安易な雇止めはリスク
契約更新を繰り返すことで、労働者の「雇用継続への合理的期待」が形成されるため、安易な理由での雇止め(契約更新拒否)は無効と判断されるリスクがあります。
👉雇止め理由の明確化
契約が繰り返し更新されて長期間勤務している有期契約労働者について、雇止めを行う場合は、客観的に合理的な理由(例: 経営上の必要、事業内容の変更、勤務成績不良)を明確にし、社会通念上相当と認められる手続きを取る必要があります。
👉無期転換ルールへの対応
労働契約法18条により、有期契約が通算5年を超えて更新されると、労働者には無期雇用への転換を申し込む権利(無期転換申込権)が発生します。企業はこれに対応する準備が必要です。
出典
・事件名: 昭和56(オ)225 労働契約存在確認等
・裁判所:最高裁判所第一小法廷
・判決日: 昭和61年(1986年)12月4日
・参照法条: 労働基準法14条「契約期間等(※)」、労働基準法21条「解雇の予告(※)」
・最高裁判所の判決文:https://www.courts.go.jp/hanrei/62868/detail2/index.html


