【重要判例】『業務委託契約者の労働者性』―INAXメンテナンス事件(最高裁2011年4月12日判決)

事件のサマリー
この事件は、住宅設備機器の修理業務を請け負う株式会社INAXメンテナンスと、同社と業務委託契約を結び修理業務に従事していたカスタマー・エンジニア(CE)らとの間で発生しました。
カスタマー・エンジニアらは、自身が会社の組織に従属して業務を行っていることから、労働組合法上の労働者に該当すると主張し、団体交渉を求めました。しかし会社は、カスタマー・エンジニアらを個人事業主として位置付け、団体交渉を拒否しました。
カスタマー・エンジニアらは不当労働行為として労働委員会に救済を申し立て、労働委員会は会社の行為を不当労働行為と認定し、団体交渉に応じるよう命じました。会社はこれを不服として裁判を起こしましたが、最高裁はカスタマー・エンジニアの労働者性を認め、労働委員会の命令を正当と判断しました。つまり、労働者側の勝訴です。
判決のポイント
この判決では、業務委託契約のカスタマー・エンジニア(CE)が、労働組合法上の「労働者」に該当するかどうかの判断基準が示されました。以下に主なポイントを箇条書きで解説します。
📌事業への組み入れと不可欠な労働力
・CEは会社の主たる事業である修理補修業務の大部分を担っており、その事業遂行に不可欠な労働力として会社の組織に組み入れられていた、と判断されました。
📌契約内容の一方的決定と報酬の性質
・業務委託契約の内容は会社によって一方的に決定されており、CEの報酬は労務の提供に対する対価としての性質を有すると認められました。
📌業務遂行における指揮監督と拘束性
・CEは、会社から修理依頼データを受信した場合、承諾拒否通知を行う割合が1%弱であり、実質的に依頼を断ることができない関係にあったとされました。また、会社の指定する制服を着用し、各種マニュアルに従って業務を行うなど、指揮監督下にあり、時間的・場所的にも一定の拘束を受けていたと判断されました。
📌事業者性の否定
・CEは独自に営業活動を行う時間的余裕が乏しく、自ら営業主体となって業務を行っている例もほとんどなかったことから、個人事業主としての独立性は否定されました。
踏まえての留意点
この判決は、企業が業務委託契約や請負契約を活用する際に、労働者性が問題となるリスクを明確にしました。企業が注意すべきポイントは以下の通りです。
👉業務遂行における裁量を確保する
・業務委託先に対し、具体的な業務の遂行方法や時間、場所にまで細かく指示や管理を行わないように注意する必要があります。
👉契約内容の対等性を重視する
・契約内容を企業が一方的に決定するのではなく、業務委託先と協議の上で取り決めるなど、対等な関係性を築くことが重要です。
👉報酬は成果物に対する対価とする
・報酬が「労務の提供」に対する対価と見なされないよう、業務の成果や独立した事業活動に基づいた支払い方法を検討すべきです。
👉他社との取引の制限を設けない
・業務委託先が他の企業と自由に取引を行うことを制限しないようにする必要があります。
出典
・事件名:平成21(行ヒ)473 不当労働行為救済命令取消請求事件
・裁判所:最高裁判所第三小法廷
・判決日:平成23年(2011年)4月12日
・参照法条:労働組合法3条(※)、労働組合法7条(※)
・最高裁判所の判決文:https://www.courts.go.jp/hanrei/81243/detail2/index.html


