【重要判例】『留学費用返還請求』―野村証券事件(地裁2002年4月16日判決)

事件のサマリー
証券会社に勤務していた従業員Aは、海外留学候補生として選抜され、フランスの大学院に留学しMBA資格を取得しました。留学にあたり、従業員は会社の「海外留学派遣要綱」に署名しており、そこには「留学を終え、帰社後5年以内に自己都合退職したときは、留学費用の全部を即時弁済しなければならない」といった旨の定めがありました。
従業員Aは帰国後1年10か月で退職したため、会社は留学費用の一部の返還を請求しました。しかし、従業員Aは返還に応じなかったことで裁判に至っています。東京地裁は、この海外留学費用を「貸付の実質を有する」と判断し、労働基準法第16条(賠償予定の禁止)に違反しないとして、会社の返還請求を認めました。つまり、会社側が勝訴しています。
判決のポイント
📌留学の目的と業務との関係性
・この海外留学は従業員の「人間の幅を広げたい」といった個人的な目的で強く希望されたもので、留学先での科目選択や生活も従業員が自由に決めている事実からしても、業務との関係性は抽象的・間接的と判断されています。本件留学が業務性を帯びず、「労働者個人の一般的な能力を高め、個人の利益となる性質を有する」ものとされました。
📌違約金や貸付か
・こうした業務との関連性が低い留学の場合、費用返還の合意は、労働契約とは別に、会社が従業員にお金を貸し付け、一定期間勤務すれば返済を免除する免除特約付き貸付の合意だと考えられました。したがって、労働者の退職を不当に制限する労働基準法第16条(賠償予定の禁止)にも違反しないと判断されました。
踏まえての留意点
👉留学制度の設計
・海外留学制度を導入する際には、留学費用の性質や返還条件を明確に定め、労働者に十分に説明するとともに、留学後の転職リスクなども考慮して制度設計を行うことが重要です。
👉契約内容の明確化
・留学費用の返還に関する合意は書面で明確に取り交わし、労働者の理解を得るよう努めるべきです。
👉法令遵守
・労働基準法第16条(賠償予定の禁止)などの関連法令を遵守し、不当な契約内容とならないよう注意が必要です。
出典
・事件名:平成10年(ワ)19822 留学費用返還請求事件
・裁判所:東京地方裁判所
・判決日:平成14年(2002年)4月16日
・参照法条:労働基準法第16条「賠償予定の禁止(※)」
・裁判所の判決:https://www.zenkiren.com/Portals/0/html/jinji/hannrei/shoshi/07947.html



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