【重要判例】『過労自殺と安全配慮義務』―電通事件(最高裁2000年3月24日判決)

事件サマリー

広告代理店に勤務していた20代・入社2年目の男性社員が、残業時間が月100時間を超える長時間労働や過重な業務によってうつ病を発症し自殺したことについて、遺族が会社に対して損害賠償を求めた事案。遺族は、会社が従業員の健康と安全に配慮する義務、すなわち安全配慮義務を怠ったと主張しました。最終的に、会社は遺族に約1億6,800万円の賠償金を支払うことで和解しています。つまり、労働者側の勝訴です。

判決のポイント

📌使用者の安全配慮義務を明言

・最高裁は、使用者(電通)には労働者の心身の健康を損なうことがないよう注意する義務(安全配慮義務)があると明言しました。この義務には、物理的な安全面だけでなく、労働者の心身の健康を損なわないよう注意する義務が含まれます。

📌長時間労働と自殺の因果関係の認定

長時間労働によってうつ病を発症し、そのうつ病が原因で自殺に至ったという一連の流れが認められる場合、業務と自殺の間には因果関係があると判断しました。

📌労働者の性格などの個別事情

労働者の性格などの心因的要因は、損害賠償額の決定において一定の限度で考慮することができるとされました。ただし、その性格等が通常想定される範囲を外れない場合には、使用者の賠償責任に影響を与えないとされています。

踏まえての留意点

この判決が示したのは、企業が従業員の心身の健康を守るための積極的な措置を講じる責任を負うという点です。具体的な留意点として、以下の点が挙げられます。

👉労働時間の適正管理

・長時間労働が常態化していないかを常にチェックし、必要に応じて人員配置の見直しや業務量の調整を行うことが求められています。

👉メンタルヘルスケアの推進

・ストレスチェックの実施、産業医やカウンセラーとの連携強化、相談窓口の設置など、従業員が精神的な不調を感じた際に安心して相談できる体制を整備することが不可欠です。

👉ハラスメント対策

・パワーハラスメントやカスタマーハラスメントが、精神的な負荷を増大させる一因となるため、防止のためのガイドライン策定や研修の実施が必要です。

出典

  • 事件名:平成10(オ)217号 損害賠償請求事件
  • 裁判所: 最高裁判所第二小法廷
  • 判決日: 平成12年(2000年)3月24日
  • 参照法条:民法709条「不法行為による損害賠償()」、民法715条「使用者等の責任()」、民法722条2項「損害賠償の方法、中間利息の控除及び過失相殺)()」
  • 裁判所の判決文https://www.courts.go.jp/hanrei/52222/detail2/index.html