【重要判例】『同一労働同一賃金』―日本郵便事件(最高裁2020年10月15日判決)

事件サマリー

本件は、有期契約社員(契約社員)が、同じ業務を行う無期契約社員(正社員)と比べて、各種手当や休暇制度で不合理な待遇格差があるとして、その是正を求めた労働紛争です。労働契約法第20条(現パートタイム・有期雇用労働法第8条)が定める「不合理な労働条件」の判断基準が主な争点となりました。

なお、有期契約社員はいずれも郵便配達や窓口業務などに従事し、正社員と異なり職務や勤務地の変更がなく、昇進も想定されない立場でした。一方、正社員は業務範囲が広く、評価や異動も行われていました。

最高裁では、挙げられたほぼすべての手当と福利厚生について、不合理な待遇差だと判断されました。つまり、労働者側の勝訴といえます。

判決のポイント

最高裁は、個別の手当や福利厚生について、それぞれの趣旨や目的に照らして待遇差の合理性を厳格に判断しました。

📌不合理だと判断されたもの

  • 年末年始勤務手当・祝日給」…郵便局の最繁忙期である年末年始に勤務したことに対する対価であり、契約社員にこの手当を支給しないのは不合理である。
  • 扶養手当」…生活補助の性格から支払われる手当であり、長期にわたり継続的な勤務が見込まれる契約社員に対して支給しないのは不合理である。
  • 私傷病の病気休暇」…私傷病による病気休暇の日数に差を設けることはともかく、有給とするか無給とするかにつき相違があることは不合理である。
  • 夏期冬期休暇」…長期休暇は心身の回復を図る目的によるものであることから、長期にわたり継続的な勤務が見込まれる契約社員に対して支給しないのは不合理である。

踏まえての留意点

👉労働条件の趣旨を明確にする

  • 各手当や休暇、福利厚生などが、どのような目的(例:長期的な勤務へのインセンティブ、生活保障、業務への貢献度など)で設けられているかを明確にすることが重要です。その趣旨に照らして、待遇差が合理的に説明できるかを検証する必要があります。

👉個別具体的な判断を重視する

  • 職務内容、責任の範囲、配置転換の有無など、正社員と非正規社員の働き方の違いを具体的に整理し、その違いに応じた待遇差が適切であるかを判断することが求められます。

👉説明責任を果たす

  • 労働者から待遇差について説明を求められた場合、企業は、その待遇差が不合理ではない理由を明確に説明できるようにしておく必要があります。この説明義務が強化されています。

👉福利厚生全般を見直す

  • 今回の判例で問題となった手当や休暇だけでなく、住宅手当、役職手当、慶弔休暇など、賃金以外のあらゆる労働条件について、不合理な待遇差がないかを確認・見直すことが必要です。

出典

  • 事件名: 令和1(受)794  地位確認等請求事件
  • 裁判所: 最高裁判所第一小法廷
  • 判決日: 令和2年(2020年)10月15日
  • 参照法条: 労働契約法(平成30年法律第71号による改正前のもの)20条
  • 裁判所の判決文:https://www.courts.go.jp/hanrei/89773/detail2/index.html