【重要判例】『経営悪化と内定取消しの合理性』 ―インフォミックス事件(地裁1997年10月31日判決)

<事件のサマリー>
この事件は、大手コンピューター関連企業に中途採用内定を受けた労働者Xが、会社側の経営悪化を理由に採用内定が取り消されたことの有効性を争った事案です。
労働者Xは、Y社から採用内定通知を受け、転職のため前職を退職して再就職の準備を進めていたところ、Y社は突如として経営悪化を理由に内定取消しを通知しました。
労働者Xは、内定取消しによって就労機会ならびに生活設計に重大な不利益が生じたとして、会社に対して地位保全等の仮処分を申請しました。一方、Y社は、経営悪化と人員整理の必要性を根拠に採用内定取り消しが認められるべきだと主張しました。
これに対し裁判所は、採用内定は労働契約として拘束力を持ち、企業がこれを取り消す場合は、解約権留保の趣旨・目的に照らして客観的に合理的で社会通念上相当である場合に限るとの判断基準を示しました。
そのうえで、Y社の経営判断の一部には合理性があるものの、対応全体を評価すると 内定取消しが社会通念上相当とは認められない としました。結果として、労働者Xの申立ての一部が認容されました。
<判決のポイント>
労働者(内定者)の一部勝訴
●採用内定取消も解雇と同様に判断
裁判所は、採用内定は「始期付解約留保権付労働契約」に当たるとした上で、その取消しは、解約権留保の趣旨・目的に照らし、客観的に合理的であり、社会通念上相当と認められる場合に限って許されるとしました。内定者は実際に就労していなくても、他社への就職が困難な立場に置かれるため、企業の判断には厳格な合理性が求められるとしています。
●経営悪化という事情は考慮されるが…
裁判所は、Y社が経営悪化に直面し、従業員に対する希望退職募集や補償提示など一定の努力をした点について、内定者に対する対応も含めて 一定の合理性がある と認めました。しかし、内定取消しの通知時期(入社日の2週間前)や労働者Xの立場(前職の退職・就職準備済み)を総合すると、 労働者Xに著しい不利益を生じさせる形での対応であり、取消しの相当性・社会通念上の是認までは認められない としました。
<踏まえての留意点>
●採用内定の取消しは慎重に
採用内定は、就労開始前であっても 労働契約としての拘束力がある とされています。企業が内定を取り消す場合には、通常の解雇と同様に、解約留保権の行使が合理的で社会通念上相当であるかどうかを慎重に判断する必要があります。労働者X側の不利益が大きい場合、裁判所は内定取消しを認めない傾向があります。
●取消し前の説明・交渉のプロセスを重視
内定取消しに至るまでに、企業が どのような説明や選択肢(職種変更・金銭的な補償など)を提示したか は、相当性の評価において重視されます。単に一方的に取消しを通知するのではなく、当事者双方の状況を踏まえた手続き・コミュニケーションを設計することが重要です。
●内定者の不利益状況を考慮した対応を
採用内定後、労働者は前職退職、住居移転、家族への説明など重大な行動をとる可能性があります。これらは内定取消しの合理性評価において不利益の程度を示す重要な要素となります。企業は、内定取消しが与える実務上の影響について十分配慮したうえで対応策を検討する必要があります。弁護士など専門家のアドバイスも得ながら、慎重に進めることが望ましいでしょう。
出典
・事件名: 地位保全等仮処分申立事件(インフォミックス事件)
・裁判所: 東京地方裁判所
・判決日: 平成9年10月31日(西暦1997年10月31日)
・参照法条: 労働基準法21条、民法1条3項・90条
・判決文(判例概要): https://www.zenkiren.com/Portals/0/html/jinji/hannrei/shoshi/06985.html


