【改正案】年金を公平・中立・簡素に!経済界が「3号廃止・1号報酬比例化」などを提言

2024年12月2日、企業経営者による経済団体「 経済同友会」が、「現役世代の働く意欲を高め、将来の安心に備える年金制度の構築~多様性を包摂し、公平・中立・簡素な制度へ~」と題した政策提言を発表した。そのなかで、「第3号被保険者制度の廃止」が提言されており、物議をかもしている。「 経済同友会」のHPに、提言の全文が公開されていたので拝読。ノートに記しておきたい。

年金制度改革の4つの視点

提言では、年金制度を抜本的に改革していくにあたり、重視すべき4つの視点が示されている。

① 多様な家族形態を踏まえた「モデル世帯」・働きたい人が働きやすい制度

「会社員夫+それを支える妻」という昭和的なモデル世帯を前提にすべきではなく、マジョリティにもなりつつある「共働き夫婦」や、増加する「単身世帯」にも目を向けるべきだという指摘。また、働きたい人が制約なく働くことができる制度にすべきだと述べられている。

② 現役世代・将来世代への負担とならない年金財政運営・応能負担の徹底

保険料を支払う現役世代(特に、若年層・子育て世代)、さらには将来世代への負担になりすぎない制度設計にすべきだとの指摘。現状では、負担感が大きくなりすぎ、若年層の働く意欲をそぐ形になっている。この現状を改めるべきだとしている。

③税と社会保険料の一体的な負担構造・基礎年金と公的扶助の関係整理

基礎年金と生活保護を一体的に議論し、整理をし直すべきだという指摘。所得再配分機能を強化し、税を含めて負担構造を一体的に見直し、最低限の保障を確実に得られる安心感のある制度にするべきだと主張している。

④多様性を包摂する「公平・中立・簡素」な制度

働き方やライフスタイルに「公平」で、個人や企業の意思決定をゆがめない「中立」を保ち、全国民に理解されやすい「簡素」な制度設計に改めるべきだという考えを示している。負担においては、能力の応じた負担にすべきだとの考えを提示(現状、1号は応能負担ではない)。

そのうえで、第1段階(5年を目途に3号廃止)と、第2段階(本丸の基礎年金改革)に分けて、着実に進めていくべきだとしている。特に気になったポイントを以下にピックアップする。

【第1段階】第3号被保険者制度の段階的廃止

<内容>

■ 3号制度は5年間で段階的に廃止。初年度から新規での3号適用は行わない。

■ 2号が全体で負担していた3号分の保険料を削減。(2号の保険料を引き下げる)

■ 事業所要件完全撤廃(非適用業種、小規模事業者、個人事業所も含め、すべての事業者に被用者保険※ 適用拡大)※厚生年金や健康保険

【第2段階】税と社会保障の一体改革に向けた基礎年金改革の検討

<内容>

■「国民年金保険料」「厚生年金保険料の基礎年金拠出金部分」の徴収を段階的に引き下げ、廃止。全額税による制度に移行する。

■ 自営業者(1号)はマイナンバー等の活用により所得を捕捉し、一律ではなく報酬比例年金に移行。標準報酬月額の上限も引き上げ。

個人的な感想

1段階目は、約721万人いる「3号被保険者」が改革の対象となる。3号の廃止により保険料負担が増えるだけでは反対意見が多くなるが、2号保険料の減額が併せて実施されれば、批判は和らぐ可能性があるだろう。「3号(多くは妻)の保険料を増やすかわりに、2号(多くは夫)の保険料を減らすね」という具合だ。反対意見がゼロになることはないだろうが、少なくとも2号(多くは夫)側は賛同するのではないだろうか。

加えて、事業所要件の完全撤廃が提唱されている。これは、小規模事業者や個人事業所、特定の業種の優遇が撤廃されるもので、賛否は分かれそうだ。しかし、働く人から見れば、勤務先の規模や業種で被用者保険の加入可否が決まる現状には、改善が必要だろう。家族以外の人を雇用する以上は、しっかりと社会保険に加入するべきだと思う。ただ、この件はすでに取り組みが開始しているものではある(パートの社会保険適用拡大)。

2段階目の提言で驚いたのは、自営業者(1号)の年金保険料に切り込まれた点。1号は現在、売上の規模のいかんによらず、保険料は一律の月額16,980円となっている。国民年金なので当然なのだが、2号が報酬比例で働けば働くほど厚生年金保険料も高くなるのに対し、1号はいくら売上が高くても一律である。稼得力が高い人でなおかつ年金制度に疑問を感じている人ならば、「1号で生きていきたい」と考えるかもしれない。フリーランスなどは基本的に1号であり、会社員と比較して年金の保険料負担は低く抑えられている(医療保険は、この限りではない)。

「国民年金保険料」「厚生年金保険料の基礎年金拠出金部分」の全額税移管は、正直なところイメージがわかない。別で消費税などが増えるのであれば、保険料のままで良いよいに感じるが、どうなのだろう。いずれにせよ、3号廃止(2号保険料減額とセット)には賛成。事業所要件完全撤廃にも賛成。1号報酬比例化は、自身が自営業者なのでどちらともいえない(喜ばしいことではない)。基礎年金部分の税移管は、大胆すぎてイメージがわかず…という内容であった。

参考



▼「 経済同友会」による提言(全文あり)

現役世代の働く意欲を高め、将来の安心に備える年金制度の構築 ~多様性を包摂し公平・中立・簡素な制度へ~|経済同友会

本文 概要 提言のポイント ※詳細は、本文PDFをご確認いただきますようお願いいたします。 本会は、昨年10月の意見書「いわゆる『年収の壁』問題の対応について」において…